
「煙の向こうに」

夜の営業が終わり、厨房に静けさが戻った。
鉄板の余熱がまだ残る中、アツキとざとは裏口へ出る。
カチッ、シュボッ――。
二人のライターが同時に火を灯す。
「ふぅ……今日も地獄みたいな一日だったな」
アツキが煙を吐き出すと、ざとは淡々と答えた。
「まぁ、問題なく終わったんだから、それで十分だ」
その時、後ろから足音。
りんたが腕を組み、ニヤニヤしながら現れた。
「お、先輩たち……カッコいいっすね。俺も吸っていいっすか?」
アツキ:「りんた、まだやめとけ」
ざと:「体に良くないよ」
「いやいや!俺、料理学校の時もちょっと吸ってましたから!」
りんたは強がりながら火をつけ、思い切り煙を吸い込んだ。
次の瞬間――
「ゲホッ!ゴホッ!……無理だコレ!」
盛大にむせ返る。
アツキは思わず吹き出した。
「だから言ったろ!無理すんなよ!」
ざとは肩をすくめて笑った。
「……昔の僕らみたいだね」
しばらく3人で笑ったあと、りんたがふと真顔になる。
「……先輩たちって、なんでそんなに息合ってるんすか?」
アツキは煙を吐きながら、にやりと笑う。
「ざとが最初から変なヤツだったからな」
ざと:「変かどうかはともかく……縁はあったな」
厨房の奥で片付けをしていたあやめが、手を止め、無言で耳を傾けていた。
りんたはさらに前のめりになる。
「気になるっす!先輩たちがどうやって知り合ったのか!」
アツキとざとは顔を見合わせ、小さく笑った。
アツキ:「……まぁ、教えてやってもいいか」
ざと:「話せば長くなるが――」
裏口に流れる煙の向こうで、過去の記憶が蘇り始める――。
回想 ― 学生時代
数年前――。
俺とざとは、まだ「相棒」なんて呼べる関係じゃなかった。
ただのクラスメイト。
ただの変人。
少なくとも、俺はそう思っていた。
だが、あの“夜”が、全てを変えた。
学校に走った衝撃

その日、校内はざわめきに包まれていた。
「陸上部のマネージャーが、旧体育館裏で倒れてたらしい」
幸い命に別状はなかったが、誰かに襲われた形跡があるという。
不安と噂が一気に広がった。
「黒い頭で、背の高い人影を見た」
目撃者の言葉が、さらに火をつけた。
「……ざとじゃないか?」
誰かが呟いた瞬間、教室の空気が凍りついた。
普段から奇行が多く、変人と呼ばれている男。
「アイツならやりかねない」――そんな空気が広がるのに時間はかからなかった。
疑いの目
「ざと、昨日の夜どこにいたの?」
クラス委員が詰め寄る。
ざとはただ小さく首を振っただけ。
「……別に」
否定も、弁明もしない。
それがかえって疑惑を深めた。
「やっぱりアイツだ!」
「普段から変だからな」
「奇行がいつか爆発すると思ってた」
教室中の声がざとを追い詰めていく。
正義感の声
「ざとがそんなことするわけねぇだろ!」
アツキの声が響いた。
机を叩いて立ち上がり、全員を睨みつける。
「証拠もねぇのに決めつけるな!アイツは変人かもしれないけど、人を傷つけるやつじゃねぇ!」
一瞬の静寂。
しかしすぐに冷ややかな声が飛んだ。
「じゃあ証拠は?」
「庇うなんて逆に怪しいだろ」
「関わってたんじゃないの?」
矛先はアツキに向かい始めた。
放課後の対話
放課後。
ざとは人影の少ない裏庭でアツキを呼び止めた。
「……アツキ。さっきは、ごめん」
小さく頭を下げるざとに、アツキは眉をひそめる。
「なんでお前が謝るんだよ?」
ざとが顔を上げる。
「僕のせいで、君まで責められたから」
「バカ言うな」アツキは肩をすくめた。
「俺はお前を疑ってねぇ。それだけだ」
ざとは息を呑んだ。
これまで誰も自分を本気で信じてくれたことはなかった。
“変人”と笑うか、距離を取るか。
それが当たり前だと思っていた。
(この人は……違う)
その瞬間、ざとの胸の奥に熱いものが灯った。
「……俺、この人と友達になりたい」
初めて心からそう思った。
こうして、俺とざとの“真実を追う冒険”が始まった。
次回予告
営業後の静かな裏口。
タバコの煙の向こうに浮かび上がるのは、二人の出会いの記憶。
りんた:「……じゃあ、その“事件”って、どんな話なんすか?」
アツキ:「簡単に言うと――あいつが疑われた夜から始まった」
ざと:「恐縮です」
――疑惑、闇、そして炎。
二人が“相棒”になるまでの物語が、ついに明かされる。
episode of Zato 第3部「炎を超えて」—俺たちは相棒になった
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