
⸻これは、まだアツキとあやめが出会う前のお話⸻
プロローグ ― 場違いなレストラン

ざとと俺は、なぜか洒落たレストランに足を踏み入れていた。
正直、男2人で来るような場所じゃない。
「なぁ、俺ら浮いてない?」
「大丈夫だ、私は清潔感だけは意識している」
(……そういう問題じゃねぇ)
そんなやり取りをしていたとき。
カウンターの奥から現れたのが、白いコックコートをまとった一人の女性。
――あやめ。
その瞬間、俺の世界は止まった。
まるで光が差し込んだみたいに、視線が釘付けになった。
「……」
「ふむ、これは察しますな」
横でざとがにやけている。
いや、察するも何も、バレバレすぎた。
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第一章 ― 恋のための就職活動

一目惚れしてからというもの、あやめの姿が頭から離れなかった。
どうにかもう一度会いたい。
気づけば、俺は求人情報を漁っていた。
「料理に興味があって…」
そう言って面接を受けたが、本当の理由はただ一つ。
“あやめに会いたい”
そして俺は――レストランのバイトに潜り込んだ。
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第二章 ― ドタバタの日々
しかし現実は甘くなかった。
皿を落とす、オーダーを間違える、盛り付けを台無しにする。
「こらぁアツキィ!!」
怒号を飛ばすのは、厨房を仕切る加藤シェフ。
その声は雷のごとく、俺のHPを毎日100削っていった。
「くっそ…でも辞められねぇ」
そんなある日の休憩時間。
通りすがりに、あやめが小さな紙切れを俺の手に押し込んできた。
『がんばれ!負けるな!』
「……っ!」
俺の心臓は爆発寸前だった。
(これ…俺に気があるってことか!?)
だが、すぐ横からすっと手が伸びる。
「ふむふむ。青春ですな」
「うわああ!?ざと!!なんでお前が!?」
実はざともバイトに受かっていた。
厨房のカオスは2倍に跳ね上がった。
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第三章 ― サイコパス妄想会議
アツキ1回叱られるごとに、ざとは3回叱られる。
休憩中、ざとは真剣な顔で呟いた。
「加藤シェフの弱点は背後。フライパンで後頭部を――」
「いや、それなら冷蔵庫に閉じ込めて2時間放置したほうが…」
しばしの沈黙。
「……やりすぎだな」
「……我々、やりすぎですな」
自分たちで自分たちにツッコむ俺たち。
横で聞いていたあやめは、完全にドン引きしていた。
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第四章 ― 惹かれる心
そんなドタバタの中でも、少しずつあやめと話す機会は増えた。
ある日の閉店後、洗い場で2人きりになった。
「今日も大変だったね」
「半分はざとのせいだけどな」
(いや、全部俺のせいかもしれん…)
あやめはクスクス笑いながらタオルを差し出してくれた。
「でもね、アツキくん。ほんとに頑張ってるの、見てたよ」
――その一言で、心臓が爆発した。
慌てて皿を持ち上げたらガシャーン!
加藤シェフの怒号が飛んでくる。
その陰で、あやめが小さく笑っていた。
(……俺、やっぱり惚れたわ)
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クライマックス ― 勇気の一言
帰り道。
並んで歩く足取りは、なぜか同じリズムだった。
「なぁ…今度、一緒にご飯でもどう?」
勇気を振り絞った一言。
あやめは驚いたように目を瞬かせ――
「うん。いいよ」
その瞬間、世界が変わった気がした。
「次回に続く!」
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