
もし、まだアツキ視点まだみてない方先にアツキ視点からがオススメです👇
第一章 ― 厨房に現れた“変な人”
その日、新しく入ってきた新人アルバイトの名前はアツキ。
第一印象は、正直――
(ドジで、変な人…)
オーダーを間違えるし、皿を落とすし、盛り付けも台無し。
加藤シェフの怒号が響くたびに、私はため息をついていた。
「またお前かぁ!!!」
数日後、さらにもう一人――ざとという青年まで入ってきて、
(え…また変な人が増えた…)
厨房は完全にカオスになった。
第二章 ― 紙切れの真相

ある日、アツキくんがシェフに叱られて落ち込んでいた。
背中があまりに必死で、放っておけなくて。
私は小さな紙切れに、ただ一言書いて渡した。
『がんばれ!負けるな!』
ほんの気まぐれ。恋なんて関係ない。
でも――渡した瞬間。
アツキくんの顔が真っ赤になった。
(えっ…もしかして、変な意味に取られた!?)
まるで告白でも受け取ったみたいに動揺してる。
むしろ私の方が戸惑ってしまった。
(ほんと、やっぱり変な人……だけど、憎めない人…)
第三章 ― 惚れ始めた小さな瞬間
それからもアツキくんは相変わらず失敗ばかり。
でも、不思議と辞めようとはしなかった。
(…どうしてこんなに必死に頑張れるんだろう)
その姿を見ているうちに、少しずつ印象が変わっていった。ほんの少しだけど(笑)。
一つ目の出来事
私がデザートを失敗してシェフに怒られたとき。
「俺がやりました!」
アツキくんが咄嗟にかばってくれた。
……いや、もうその時点で私、怒られてる最中なんだけど!?
余計にややこしくなって、結局二人そろって怒鳴られる羽目に。
(ほんとバカだなぁ……)
でも、あの必死さは嘘じゃない。
気持ちはちゃんと伝わってきた。
だから――「ありがとう」と心の中でだけ呟いた。
二つ目の出来事
仕事帰りの夜道。寒さに肩をすくめた瞬間。
「……ほら」
何も言わずに自分の上着をかけてくれた。
私は驚愕した。
――アツキくん、上着を脱いだらまさかのタンクトップ!?
あなたの方が絶対寒いだろ!!
天然が行き過ぎると、もう変人の域なんだな……。
でも――ありがとう、変人。
その御言葉に甘えて、温かく使わせていただきます。
三つ目の出来事
ざとさんの奇行で厨房が大混乱したとき。
熱い鍋にぶつかりそうになった私を、アツキくんが咄嗟に庇ってくれた。
「大丈夫か!?」
その声に胸が震えた。
……けど。
(頭にパスタ乗ってるよ!?)
私の心配より、まず自分を心配して!
こっちが心配になるってば……。
でも、本当に助かった。ありがと。
……って、え?
アツキくん、そのまま頭にパスタ乗せたまま、ざとさんに説教してるんだけど!?
(いや……頭……!!)
第四章 ― 洗い場での言葉
閉店後。
たまたま洗い場で、アツキくんと2人きりになった。
何気ない雑談をしているうちに、つい口に出していた。
「あの…今日も大変だったね」
ずっと見ていた。
シェフに怒鳴られながらも、必死に皿を運ぶアツキくんの姿を。
彼は一瞬きょとんとしてから、少し照れくさそうに笑った。
「……見てたのか」
落ち込んでいるように見えたから、私は励ますつもりで言った。
「でもね、アツキくん。がんばってるの、ちゃんと見てたよ」
その瞬間、彼の顔が真っ赤に。
(……また勘違いしてる?)
私は首をかしげたけど、気づかないふりをした。
すると、彼は血迷ったように口を開いた。
「じ、じゃあさ!今度…一緒に出かけない?」
思わず驚いたけど、断る理由もなかった。
悪い人じゃないし、なんだか楽しそうだと思ったから。
「……いいよ」
アツキくんの顔がさらに真っ赤になった。
第五章 ― デート三部作
1回目:デパート

待ち合わせは駅前。
少し緊張しているように見えるアツキくんが、背筋をやたら伸ばして立っていた。
(……そんなに力入れなくてもいいのに)
デパートを回っていたときのこと。
子ども向けの帽子コーナーで、アツキくんが急に足を止めた。
「……ちょっと被ってみてもいい?」
止める間もなく、クマ耳のニット帽を頭にのせる。サイズは明らかに合ってない。
「どう?似合う?」
(いや……それ置いてるだけだから!)
真顔でポーズを決める彼に、思わず吹き出してしまった。
その後も、うさ耳、王冠、消防士……。
次々に“のせ芸”を披露する彼を見て、私は笑いすぎて涙が出てきた。
(……ほんと、変な人)
でも、楽しいかも……。
けど、やっぱり恥ずかしい。
(とりあえず、今日は早く帰ろう)
帰り際、信号が変わる瞬間。
アツキくんが私の前に腕を出して、そっと制した。
「急がなくていいよ」
それだけのこと。
でも、不意に胸がきゅっとなった。
(なんだろ……へんなの)
2回目:映画館

二回目のデートは映画館。
席に着いた瞬間、アツキくんがポップコーンを派手にばらまいた。
「おいおい……!」と慌てて拾っている姿に、思わず吹き出してしまう。
予告編が流れ出すと、感情移入しすぎて、気づけば涙がこぼれていた。
「ちょ、ちょっと早くない?」
小声で差し出されたハンカチに、思わず笑ってしまう。
(……なんか、優しい)
映画を見終えたあと、彼は真剣に感想を語っていた。
その横顔を見ながら、心が少し温かくなる。
でも同時に、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきて――
(……あ、やばい。帰りたいわけじゃないけど、なんか照れる)
3回目:夜景の公園

三回目のデートは夜景の見える公園。
イルミネーションの光に照らされたアツキくんは、いつもより大人っぽく見えた。
急に立ち止まって、真剣な顔で私を見つめる。
「俺は……あやめのことが好きだ。俺のこと、男として見てくれ。よかったら、付き合ってくれ!」
一瞬、心臓が止まったように感じた。
これまで「変な人」としか思ってなかったのに、こんな真剣な顔を見せるなんて。
胸がぎゅっと締めつけられて、恥ずかしくて、言葉が出なかった。
ただ、自然に頷いていた。
そのとき、彼の目に涙が浮かんだ。
思わず手を伸ばして、そっと拭う。
「……男でしょ? 泣かないの」
そう言った声まで震えていた。
(なにこれ、私まで泣きそう……でも、なんか、あったかい)
エンディング ― 始まりの日
翌日。ざとがスーツ姿で現れた。
「お二人のために結婚式場の資料を用意しました」
「はえーよ!!」
アツキのツッコミが響く。
私は笑いながら思った。
――騒がしいけど、この人たちと一緒なら、きっと楽しい。
こうして私とアツキの物語は、本当の意味で始まった。
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