
「炎を超えて」—俺たちは相棒になった
放課後の校舎にて
放課後の校舎は、昼間のざわめきが嘘のように静まり返っていた。
夕陽が廊下を赤く染める中、アツキとざとが歩いていく。
「なぁ、ざと」
アツキが口を開く。
「俺らで――お前が犯人じゃないってことを証明しようぜ。
そしてみんなにギャフンと言わせてやろう!」
ざとが足を止める。
「……どうしてそこまで信じられるんです?僕が犯人かもしれないのに」
アツキは振り返り、真っ直ぐにざとを見た。
「お前が人を傷つけるわけねぇだろ。俺はそう思ってる」
一瞬、ざとの瞳が揺れる。
やがて彼は息を吐き、小さくうなずいた。
「……正直、まだ信じきれません。でも――もしまた被害が出たら、今度こそ取り返しがつかない」
「だから、僕も一緒に探します。真実を」
二人は並んで歩き出す。
向かったのは、陸上部マネージャーが倒れていた旧体育館裏だった。
旧体育館裏

雑草が伸び放題の裏庭は、静寂の中にどこか不気味な気配を漂わせていた。
コンクリート壁には黒ずんだ跡、使われなくなった備品が無造作に積み上げられている。
「ここで……マネージャーが倒れてたんだよな」
アツキがつぶやく。
ざとが小さくうなずく。
「ええ。何かを“見た”んでしょう。だから狙われた」
だが、目に映るのはただのガラクタばかり。
アツキは頭を掻きながら吐き出した。
「ったく……どこ探せばいいんだよ」
その時だった。
ざとが立ち止まり、壁際に放置された“錆びついたロッカー”に視線を向けた。
「……なにしてんだ?」
アツキが首をかしげる。
ざとはゆっくりと答えた。
「人は、使わなくなったものを捨てきれず、こういう所に放置するんです。だから――隠すなら最適でしょう」
ギィ……と不気味な音を立て、錆びついた扉が開く。
中から、埃をかぶった一冊のノートが落ちてきた。
「おいおい……ホントに出てきたけど、ただのゴミじゃねぇのか?」
アツキが眉をひそめる。
ざとはノートを拾い上げ、埃を払いながらページを開いた。
「……いえ、これは――ただのゴミじゃありませんよ」
顧問の過去
中には、化学薬品の名と不可解な数字の羅列。
何度も殴り書きされた「火」という文字。
そのページに挟まれていた写真に、二人は息を呑んだ。
写っていたのは――若き日の陸上部顧問。
トラックの上で、栄光に包まれた笑顔を見せる姿だった。
ページをめくると、震える字で日記のような文章が綴られていた。
『あの日、妻は帰ってこなかった。
街で高校生の集団に絡まれ、事故に巻き込まれて死んだ。
走っても、走っても……俺は救えなかった。
燃やしてしまえ。俺の青春も、この腐った学校も――』
アツキは拳を握りしめた。
「……顧問、こんな過去が……」
ざとは静かに呟く。
「やっぱり……マネージャーは見てしまったんです。顧問が“火”を準備しているところを」
「だから口封じに……?」
「ええ。彼女を狙った理由はそれしかない」
二人は顔を見合わせる。
まだ完全に信頼しているわけではない。
けれど――今は同じ方向を見ていた。
残された謎
その時、アツキがふとノートを見つめ直し、呟いた。
「……でもさ。なんでこんな大事そうなノートが、こんな裏のロッカーに放置されてたんだ?
普通なら隠すにしても、場所がおかしいだろ」
ざとは小さく眉を寄せた。
「……確かに。不自然ですね。――でも答えは、顧問を追えば分かります」
「……だな」
二人は無言で頷き合い、歩き出す。
決意を帯びた足音が、夕暮れの廊下に響いていった。
そしてその影の先で――
陸上部顧問は、旧校舎の奥にマッチを握りしめていた
episode of Zato ③「炎を超えて」—友情と相棒の絆
旧校舎
旧校舎の奥。
そこに立つ顧問の姿は、昼間の穏やかな教師のものではなかった。
手にはマッチ、足元には化学薬品のボトル。
顧問:「……燃やしてやる。この学校も、俺の失った青春も!」
炎に照らされた顔は、憎しみに歪んでいた。
アツキとざとが駆け込む。
「やめろ!」
アツキが叫び、顧問に飛びかかろうとする。
だが顧問は力強く押し返す。元アスリートの身体はまだ健在だった。
ノートが語る真実
その時、ざとが前に出た。
「顧問……あなたは、本当は走ることで人を救えた人だったはずです!」
しかし顧問は聞き入れない。
「救えなかったんだ!妻を!あの日の俺には、走る意味なんてなかった!」
マッチに火が灯る。
その瞬間――ざとの目に、ノートの光景が蘇った。
(……だから、あのノートを隠していたのか)
顧問は、本当は忘れられなかった。
でも持ち歩けば危険。だから旧体育館裏のロッカーに、捨てられずにしまっていた。
――マネージャーはそれを偶然見てしまったのだ。
ざと:「……やっぱり、あなたは捨てられなかったんだ。走ることも、過去も」
全力疾走 ― ざとの脚が未来を変える
アツキが必死に顧問の腕を押さえる。
「ざと!早く!」
ざとは大きく頷くと、顧問の足元に置かれた薬品を掴み取った。
「僕は――走ります!」
次の瞬間、ざとは爆発的な加速で駆け出した。
化学薬品のボトルを抱え、校庭の端まで全力疾走。
風を切り裂く音。地面を蹴るたびに、心臓が高鳴る。
「走っても救えなかった……?」
――いいや。
「走るからこそ、救えるものがある!」
ざとは校庭の端に到達し、ボトルを安全な場所へと投げ捨てた。
顧問は力尽き、アツキに取り押さえられる。
駆けつけた教師と警察に連行されていく背中は、どこか悲しく見えた。
相棒の誕生 ― 疑惑を超えて
翌日。
ざとの無実は証明され、クラス中から「疑って悪かった」と頭を下げられた。
ざとはただ小さく笑って答えた。
「僕は変わり者です。疑われるのも慣れてます。
でも――誰かを守れるなら、それで十分なんです」
その隣でアツキが笑う。
「だからお前は、俺の相棒なんだ」
ざとは驚いた顔をし、そしてふっと微笑んだ。
「……相棒、ですか。悪くない響きですね」
現代 ― 笑いのオチと二人の秘密
りんたは目を潤ませて拍手した。
「……すげぇっす……!そんな青春ドラマみたいなこと、本当にあったんすね!
ざと先輩、アツキ先輩……マジでカッケェっす!」
アツキとざとは、照れくさそうに顔を見合わせる。
その時、黙って聞いていたあやめが口を開いた。
「……ちょっと待って。その話、大きすぎない?
火だの爆発だのって、もし本当ならニュースになってるでしょ」
アツキ:「なんだ!あやちゃんも聞いてたのか!? まー盛ってるかもね」
(思わず肩をビクッと跳ねさせる)
あやめはジト目でにらみ、ため息をひとつ。
「ほんと、あんたたちって……バカみたい」
アツキとざとは同時に視線を逸らし、バツが悪そうに笑った。
りんた:「えっ!?じゃあ結局……本当だったんすか?それとも盛っただけ……?」
二人は肩を並べ、笑いながら言った。
「それは……俺たちだけの話だ」
次回予告
りんた:「……マジっすか。そんなドラマみたいな過去があったんすね!」
あやめ:「はいはい、大げさな話はここまで。次は“今”の話でしょ?」
アツキ:「まぁ、あの頃も今も……俺たちは走り続けてるだけだ」
――過去を語り終えた彼らに待つのは、また新しい試練。
仲間と歩む現在の物語は、まだ始まったばかり。
サイドストーリー予告
本編の裏で巻き起こったドタバタ劇!?
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